カルナの美徳3
ダルマに忠実であるため、
一番のプライドであるはずの黄金の鎧とイヤリングを
迷わず差し出したカルナでしたが、
運命のクルクシェートラの戦いは刻々と迫っていました。
そもそもマハバーラタの戦いは、カリユガが始まる前に
高慢で邪悪なクシャトリヤを地球上から1人残らず抹殺するため
至高神によって計画されたものです。
クリシュナ神の意志は、パンダヴァ対カウラヴァという
クル族の内戦を通して今正に現象界で起ころうとしました。
登場人物の1人1人が自分のダルマを生きなくては
その宇宙の意志が達成されません。
では、カルナにとってその正義とは一体何だったのでしょう。
::::::::::::::
パンダヴァ兄弟の従妹ドゥリョーダナは、彼らに王国を
返還せよとの周りからの忠告に耳を傾けることは最後まで
ありませんでした。
クリシュナ自身もカウラヴァの重鎮のもとを訪れ、
最後の説得に出向きますが、やはり内戦は免れないと
一同は落胆します。
クリシュナがハスティナプラを去ろうとしたとき、
カルナを見かけます。
クリシュナはカルナを森へ連れていき、
実は彼こそがパンダヴァの長男で、スーリャ神の息子
であることを告げます。
今まで自分はスータプトラ(シュードラ)と思い生きてきた
カルナはショックを受け、その場に泣き崩れました。
「もうすぐ戦いが始まる。このままではお前は、アルジュナ達と
クルクシェートラで一騎打ちしなければいけないことになる。」
クリシュナは優しく語りました。
「ドゥリョーダナと共にカウラヴァ側で戦う必要はない。
わたしと一緒にパンダヴァのもとへ行き,真実を話そう。
皆今までの誤解は水に流し、お前を兄として歓迎し、
王として崇めるであろう。
さぁ、わたしと一緒に本当の家族のもとへ戻ろう。
そしてパンダヴァの星として戦うのだ。」
カルナはバガヴァーンの慈愛に涙し、
「あなたの言葉で、わたしの魂は救われました。
ありがとう、クリシュナ。パンダヴァの兄弟たちと
生きられたらどんなに幸せなことでしょう。
でもシュードラの身分であることなど気にもせず、
わたしを受け入れ愛し、真の友でいてくれた
ドゥリョーダを裏切り見捨てることはできません。」
カルナはクリシュナの手を握り続けました。
「生まれてすぐに捨てられ苦労ばかりした皮肉な一生
でしたが、これがわたしの人生です。
この戦いでパンダヴァ族が勝利する運命であることは
わかっています。わたしはアルジュナによって殺され
スワルガ(神界)へ行ければそれでよいのです。」
すでにインドラに黄金の鎧とイヤリングを渡し、
スーリャプトラ(太陽神の息子)という絶対的な
武力を自ら犠牲にしたカルナにクリシュナは
言いました。
「カルナよ、パンダヴァ族で最も崇高な魂の持ち主よ。
その犠牲の心は、スワルガで神々の祝福を受けるであろう。」
::::::::::::::::::::
次の日、カルナは清々しい心でいつものように
南中の吉兆な時刻に川のほとりで父スーリャデーヴァに
礼拝を捧げていました。
するとどこからか一人の女性が近づいてきました。
カルナはその女性に気づき言いました。
「わたしは、馭者アリラタの息子です。
なんと高貴なお方でしょう。どうしてこんなところに。」
クンティー妃は言いました。
「わたしのことがわかるかしら。わからなくて当然ね。
今日は頼みがあってここへ来たのです。」
カルナはその女性をじっと見つめると、言いました
「あなたは物心つく前からずっとわたしの夢に
幾度となく現れた人ですか。そうだ、そうに違いない。
いつもずっとあなたに会いたかった。わたしを育ててくれた
ラーダ以外にその夢について話したことはありません。
あなたがわたしのほんとうの母なのですね。」
クンティーの頬には涙が溢れ、彼女は言葉を失ってしまいます。
「昨日クリシュナから全て聞きました。もう過去のことなど
どうでもよいのです。神が授けてくれたこの時間、一瞬たりとも
無駄にしたくない。ここに来て、一緒に座ってください。」
カルナはクンティーの膝枕で目を閉じ涙を拭いました。
クンティーは彼の頭を優しく撫で、2人はしばらくそのまま
その瞬間に浸ったのでした。
「こんなに平安な気持ちになったこと、今までになかった。
今日はどうしてここに?」
カルナは尋ねました。
「ラデヤ(ラーダの息子)と名乗ることはない。あなたは
まぎれもなくわたしの息子。スーリャデーヴァであると
知らずに、世間はあなたに冷たくあたったのね。
わたしと一緒にアルジュナ達の元へ行きましょう。
王国も長男であるあなたのものです。」
太陽が川面を照らし、その永遠の黄金の光で
2人を祝福しました。
「あなたと一緒に、弟たちの元へ行けたらどんなに
いいでしょう。でも友人のドゥリョーダナを裏切る
訳にはいかないのです。」
カルナは悲しい表情で続けました。
「でもあなたの願いを叶えましょう。
戦争で息子同志が傷つけあうことを心配しているのでしょう。
見てください、わたしにはもう黄金の鎧はありません。
リシからも大切な戦で武器を呼び起こすマントラを忘れる、
という呪いもかけられました。
だから心配ない。愛する弟たちを殺すことなど
しないとあなたに約束しましょう。
ただ、弟と知りながらもアルジュナと対決するのが
わたしのダルマ。それを受け入れなくてはならないのです。」
「でも今日は特別な日。こうしてやっと出会えたのだから
涙を流すのはもうやめよう。」
母と子はそのまま長い間その場に座り時を忘れました。
カルナは母の手に何度もキスをし、
抱きしめ、泣きながら城へ戻る母の後姿をずっと
眺めていたのでした。
0コメント